6.EF8ダンパー開発


2005年
進化は敗北から始まった。

2005年度全日本ジムカーナ最終戦 MINEサーキット
永島裕士 SA1クラス六位(シリーズランキング 二位)

この試合で彼は1年間争ってきたチャンピオンを逃した。
運転が負けた?
それはドライバーの努力だ。チューナーの関われる部分ではない。

負けていたのは足のセッティングだった。
サポートドライバーの成績を後押しできずチャンピオンのチャンスを無くさせた。


TTのスタッフは1人もFF経験者がいない。
このため、CR−Xは過去のデータに依存。
DC2インテグラのアペックス社市販データを元にノーマル形状の頃からのデータを織り交ぜてドライバーがカートコースメインという事だけ踏まえてアレンジしたものだった。

TTのスタッフは1人もFF経験者がいない。
サポートドライバーの作る挙動がタイムの出る挙動なのか、リア駆動の動きをベースに見る目を養ってきた私達にはフロントだけ引く車の「良い動き」が今一わかりずらかった。


よほどこのこの敗北が精神的に辛かったのだろう。
このレースの翌週、サポートドラは翌年の開幕戦の舞台である関越スポーツランドに来ていた。こちらも最終戦で見た足の違和感を確かめるべく慣れ親しんだレイアウトである関越スポーツランドへ赴いた。

関越を走るCR-Xにはまたしても違和感があった。
でも何かがわからない。
「1度乗らせて。攻めないから。」
FFに乗った事は無かった。
でもきっと....限界性能に対するダンパーの扱いやすさを追求することは駆動方式関係なく同じ方向性を求められるはずだ...。

スタートしてシフトアップ。左にコーナリング、そして1速にダウンして2本巻きパイロンを立ち上がる。
....全くダメだ。こんなのではタイムが出ない。
何故今年1年で見抜けなかったんだ....。
コイツ、なんでこんな足でここまで頑張れたんだ。


そして
この日から、軽車重FFの全く新しいダンパーの模索が始まった。
2006年
〜4月
何が全然ダメか。
硬すぎて曲がらない。タイヤがずれた時のトラクションが無い。

全然ダメだった。
もっとトラクションを上げる。
これはそもそもの車の設計の問題なのだが、EFもDCもホンダ車のダンパーは短い。
まだDC系は車両側のアーム設計そのものが進化しているのでこの短いサスペンションでも十分ストロークを確保できる。しかし旧設計のCR-Xではアームのレバー比が足りずもう少しダンパー自体に長さが欲しいところである。
縮みで工夫できないか1?
大阪から送ってもらったダンパーを組み替えて送り返し、テストしてもらいレポートとビデオを送ってもらうというやりとりを繰り返した。多い時には1ヶ月で2回。
何度もビデオを見てはディスカッションを繰り返す。

しかし、基本的なイメージがどうやらドライバーと開発側でずれている。
何かが違う。
テスターで計ると
「イメージに近い動きが出ているはず」
なのに、実際に走って来るコメントは
「ピッチング(跳ね)がででしまった」
「スイートスポットがとても狭くなってしまった」
というものだった。


これを解決するにはもっと減衰力を抜いてしまうのか?
車重に合わせて柔らかくしていく方向ではこのFFドライバーの欲しがるステアレスポンスを維持出来なくなる...。


倉庫に眠っているモノがある事を思い出していた。

以前、別メーカーさんが実験的に開発した試作ピストンだった。
アベックス社のピストンだけでは飽き足らないので、何か違う味をもったピストンを入れてオリジナルダンパーを作れないかと模索していたときのモノ。

スタッフ3人ともフロント専用と考えてこのピストンのテストはした。
しかし

ランサー
「フロントが入りやすくなるのはありがたいが別に必要としない」
RX-7
「特性が違うようには感じるがフロントにレスポンスがあってもあまりタイムとは直結しないから使用するほどではない」
という結論で特に必要なしと外されてしまった。

この時期DC2用のダンパーも同時に模索していたため、先に1セット別なサポートドライバーに足のテストをしてもらっており、何度がディスカッションも終えてスタッフ3人には無い手ごたえがあるようだった。
駆動が違うとこういう動き方に好みがあるのか...と意外に思えたピストンである。

フロントにこのピストンを使ってみた。
その日のテストで二駆最速タイムを午前、午後ともにマークしたと連絡が入った。


この別設計ピストンは既存のアペックス製のピストンより低速でより多くの動きを出す設計。同じ減衰力でダンパーを作ってもドライバーは大きく動くように感じるので逆に減衰力を強く制作することが可能。
市販ではないが暫定でこのピストンをベースにサポートドライバーの仕様を煮詰めていく事にした。同時にこのピストンが無くても市販のアペックスの部品でこのピストンの乗り味を出せないかという試行錯誤も始まった。





2006年
後半
まだ曲がらない

順調にポイントリーダーとなって望んだ第3戦SUGOで予期しない動きが出た。
ここでサポートドライバーは一年ぶりに入賞を逃した。
公開練習ではトップタイムなのに、決勝は終始フロントアンダーで結果11位。

そして次の北海道ラウンドでもまたアンダーステアに悩まされることになる。

セッティングの前後バランスを崩さなければならない事に思い当たった。
ブリヂストンタイヤ55Sにどうやらマイナーチェンジが起こっているらしい。
食い方、曲り特性が変わってしまっていてせっかくノーズが入るようになった車をリアが押してしまう。
グリップのいい路面ではリアを楽にし、リアが先に動いてフロントを助ける動きにする必要性を感じられた。
しかしリアを柔らかくすると途端にドライバーからクレームが出た。
「限界を下げると得意な高速ブレーキングが詰められない。」と。

駆動しないリアのコーナー限界を下げたいのに高速ブレーキはそのまま生かしたい。
そんな無茶な希望なのか!?
駆動しないリアを知らない。
くそ。わからない....。
何もできないまま最終戦まで来てしまった。

全日本シリーズが終わり彼はシリーズチャンピオンとなった。

こんな状況でもドライバーの練習とその場その場のスプリングチョイスや減衰チョイスでなんとか足の動きを取り繕って動きとしては悪くない足回りを保ってきた。
しかし、低速域や砂の浮いた路面でリアの動き誘うのにもう今のままでは限界だと悟ったのだろう。

要望があった。
「もっとピッチングを出したい」
この場合のピッチングとは跳ねのことではなく車体の前後方向の動きを言っている。

パイロンコース向けの足の基本はブレーキ時にノーズをダウンさせリアのリフトを誘って曲げやすくする。向きは変えやすい。しかしカートコースでは限界が下がりふらつく原因にもなる。これまでこのサポートドライバーは極端にこの動きを嫌った。しかし「車をもっと動かしてくれ」と言ってきたのだ。

JAFカップの翌週、現在の仕様より更に10%縮みを弱くし、その分伸びに反動が来ないようにフロントを仕様変更。更にリアは大幅にフロントへの追従性だけを考え07SPECへの模索を開始した。


2007年 BSタイヤRE55SにWTSというコンパウンドがラインナップされた。
今までのWT2とは明らかにコンパウンドも違うが構造が違う。
ブレーキングでタイヤはつぶれながら曲がっていく特長がある。
このタイプのタイヤを使い切るには固めの足で押し付けて滑らせるより、柔らかめの足で構造のつぶれがゆっくり起きるようにしたい。

今までよりも柔らかい。でもトラクションには妥協はしない。
「車を動かす方向」でダンパーのセッティングをしてくれといわれた事で、ダンパーの作り方に方向性が広がった。しかもタイヤが変わった事でこの選択はまさにオンタイムであった。

 ver.1
タイヤに合わせた試作とテストを繰り返している最中での第1戦。名阪の天候は雪で足の動きは出なかったがタイヤがこんな気温でもつぶれて曲がっている事を見てすぐさま仕様変更を行う事とした。

ver.2
足を見たかったのだか第2戦浅間台では駆動系のマシントラブル。
次の幸田で優勝。
だがゴール前の八の字でリアの動きが悪く、タイヤのトラクションを目の当たりに感じた。柔らかさだけではこのタイヤのグリップはブレーキを使い切らせてしまう。
リアか...。

ver.3
まだリアのグリップがフロントに対して勝ってしまっている。
前後同サイズを履かなくていけないCR−X特有の難しさが出た。A車の頃には無かった動きだ。
リア限界そのものをもっと下げてしまい、バネの硬さだけに頼ればショートホイールベースとタイヤに依存して曲がりやすさは出るだろう。
だが、低いところで妥協するなら開発の必要はない。

それからはサポートドライバーに同じセッティングでは走らせなかった。
SUG0ラウンド後走行する機会ごとにテストを繰り返し、同じダンパーで2日走る事が無いくらいである。
IOX-AROSAラウンド一週間前、現地の練習会に行っているドライバーの感想を聞いてそれまでのデータからではなく考えを180°転換して初期減衰の立ち上がり方に特徴を作るアイデアが浮かんだ。その場で予備のダンパーを翌日着で送ってもらいその日のうちに仕様変更をして1日おいてまた練習に来ると言っていたIOX-AROSA会場に直接送りつけた。ドライバーの自宅に送る時間が無かったのだ(笑)中1日の荒業。

ver.3改
そのIOX-AROSAから昼過ぎにメールがきた。
『すげー踏める!立ち上がりでリアタイヤがついてくる、全く押されない!リア正履きでも二速からの旋回加速でのアクセル開度が違う!』


目処がたった。
面白いことにそれまで関東のFFドライバーがよくやる、リアの逆履きがパイロンコースでは走り易いという話がよく出ていたのに、リアタイヤの裏履きやローテーションを変えたりといった裏技よりもリアも正履きのほうがタイムが出るようになったらしい。
タイヤが本来あるべき姿でトラクションをかけて曲がれる。理想!



かくして、この一歩手前にできていた
゛ver.3゛「カートコース向け、単発ターン向け」
フロント伸び固め
リア縮みニュートラル


と、この日完成した
゛ver.4゛ 「パイロンジムカーナ、雨向け」
フロント縮み伸びとも両方わずかに柔らかめ
リア縮み柔らかめ


の2SETが暫定完成した。
コースレイアウトによってはパイロンコース用のダンパーでカートコース並みのコーナリングスピードを要求されることもあるため、パイロンジムカーナ用のリア足はピストンスピードで減衰の出方を変え、比較的コーナースピードの高いところではドライバーの好みの「高速ブレーキングに耐えうる」硬さを演出してみた。
これは気持ち冒険だったのだが(笑)、おかしな硬さになったりもせず 意図したところがうまく出て違和感の無い動きとなった。


また、それとは別に昨年から引き続き非売品のピストンを使用してもらってそちらのデータ
も溜まった。全てを踏まえて本人達の感想、ビデオで動きの違いを細かく検証。
このピストンを使用しなくてもアペックス社の部品だけで似た動きの出せる部品の組み合わせを見つけることができた。
ダンパーテスターでそれらの比較をきちんとデータ化できるのも嬉しい。
市販バージョンの完成である。
こうして旧車中の旧車、CR-Xの開発にとりあえずの決着がついた。


前後同じサイズのタイヤをはく為、ホイールベースが短いのにアンダーになり易いCR-Xの特性を最大限に生かす。

「全身で曲がる」
「接地の出ているリアでスピンしにくい」
「なのにサイドターン後のFF特有のリアが滑りすぎて立ち上がれない症状を極力軽減した」
扱い易いが限界も高いダンパー。



サポートドライバー
2007年度 永島裕士 2年連続SA1クラス全日本ジムカーナチャンピオン。

2008年 しかしまだ課題はある。
2SETもてない人のために両立できる減衰は無いか!?
TTは貧乏人の味方なのだ。

カートコース用とパイロンコース用のダンパーの特性を比較しているうちにリアダンパーの動きにまだ改善できるところがあることに気がついた。

CR-X。
まだまだ発展中である(笑)。